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鹿児島地方裁判所 平成3年(行ウ)3号 判決 1999年12月20日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告が、訴訟承継前原告亡橋口正男(平成5年6月17日死亡。以下「正男」という。)に対し、平成3年3月25日付けでした、鹿児島県営の特殊農地保全整備事業西花岡地区5工区の換地計画に対する正男の異議申立て棄却決定を取り消す。〔中略〕

二  被告が、正男に対し、同月26日付けでした、別紙(1)物件目録二ないし四の土地に対する換地処分(鹿屋耕第257号)を取り消す。

第四  当裁判所の判断

一  原告は、本件換地計画及び本件換地処分には手続違背、事実誤認及び照応の原則違反の瑕疵がある旨主張するので、以下順次検討する。

二  事実経過

前記争いのない事実に〔証拠略〕を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  本件地区(松ケ迫)のうち、本件従前地を含む付近一帯の土地は、もと橋口吉蔵が所有していた。吉蔵には先妻との間に長男清高、後妻との間に長男正男、二男源蔵の3人の実子がおり、登記簿によると、吉蔵の生前中(昭和14年ころ)、右土地をこれら3子に財産分けしている(すなわち、清高に4580番7、正男に4580番6と4569番2、源蔵に4580番4・5と4569番3をそれぞれ贈与している。)。右3子のうち、吉蔵の跡を継いで鹿屋市に在住するのは正男1人であり、源蔵や清高(大阪府守口市在住)は早くから他所に独立していた。

正男は、吉蔵の生前、同人から4580番8の土地を貰い受け、これを3枚の水田(別紙(3)図面(〔証拠略〕)の<5>の部分)にして耕作し、また自己所有地及び源蔵所有地を事実上管理していた。一方、清高は、自己所有地(なお、同人は吉蔵の死去に伴い昭和17年ころ4581番の土地を家督相続した。)を甥(姉の子)の長崎義光に管理させていたが、清高所有地の多くは休耕地や荒れ地と化していた。正男と清高は、しばしば互いの所有地の境界をめぐって紛争を生じ、昭和59年4月ころも、清高が長崎義光らと自己の所有地に打った杭(甲18参照)を正男が一部引き抜くなどしたことがあった。

2  鹿児島県(鹿屋耕地事務所)は、昭和54年ころから、鹿屋市西花岡地区で県営による特殊農地保全整備事業(本件事業。圃場整備、道路整備、排水路整備等の特殊農地保全整備事業である。)を開始した。同事業の対象地域(事業面積213.5ヘクタール)は1工区から4工区に分割され、対象地域の農家(戸数544戸)は、本件事業の開始に先立つ昭和54年11月ころ、右事業の推進を図るため、鹿屋市花岡土地改良区(児島盛敏理事長)を設立して、理事長名で本件事業の施行認可申請を行った(鹿屋地区では各地区の土地改良区と水利組合等で構成する鹿屋市土地改良区連合会が組織され、同連合会において各構成員の一般庶務、会計等を行っていた。)。

本件地区(松ケ迫)は、本件事業の対象地区(3工区)と道路一つ隔てて隣接するが、元来、本件事業の対象外であった(本件地区付近を撮影した航空写真の撮影時期は、甲9が昭和41年ころ、乙3が昭和50年ころ、甲10が昭和56年ころである。)。

3  本件事業の換地業務は、鹿屋耕地事務所が県土改連(鹿児島県土地改良事業団体連合会)鹿屋支部に委託し、県土改連鹿屋支部は地元の花岡土地改良区と共同して右業務を行っていたところ、同改良区の児島理事長は、本件事業進行中の昭和60年4月ころ、鹿屋耕地事務所に対し、本件地区(松ケ迫。3.5ヘクタール。〔証拠略〕)を新たに本件事業の対象地域に取り込むよう要請した。県では、同年8月ころ以降、右理事長の要請に応えるべく、正男、清高を初めとする本件地区の事業参加者(受益者。リーダーは折田清則)全員の同意を得て、事業費2600万円を翌年度(昭和61年度)の予算に組み、本件地区を本件事業の対象地域として拡大することとした(乙35によると、西花岡地区における本件事業の事業費は、設計費3億6640万1000円、工事費3億6250万3000円の合計7億2890万4000円であり、そのうち5工区分は設計費2642万円、工事費2631万4000円の合計5273万4000円である。)。

4  新たに事業対象に組み込まれた本件地区(松ケ迫)の測量は鹿屋耕地事務所が県土改連に委託し、県土改連鹿屋支部はこれを有限会社立花測量設計(代表者立花敏文。同人は測量設計士の資格を有する。)に委託した。同社は、もともと1工区と4工区の測量委託を受けており、立花測量士は、昭和60年9月以降、右5工区の測量の事前準備として、数回にわたり本件地区(松ケ迫)の外周と筆境確認のため現地を訪れ、その都度地権者から境界点の教示を受けた。すなわち、

立花測量士は、別紙(3)図面中央の東西に通じる道路(里道)から北側の部分について、同部分が耕作状況等で比較的境界がはっきりしていた関係から、地権者である折田清則や寺村幸男らの個別の立会を得て、境界を確認して回った。(<8>の土地については、正男が「里道の北側に源蔵の土地はない。」と説明したため、同測量士は右土地を正男所有の4569番2に該当すると判断した。)。

次いで、立花測量士は、右里道から南側の部分について、同部分は前記水田以外の正男所有地と清高所有地との境界が明確でなかったことから、県土改連鹿屋支部に要請して境界確認のための関係者の立会を求め、昭和61年2月25日、現地に赴いた。現地には正男のほか花岡土地改良区理事古里春夫、県土改連鹿屋支部担当者牧迫及び末永、鹿屋耕地事務所担当者谷口及び福岡、さらに里道北側の地権者(折田、寺村ら)らが参集した(大阪在住の清高は立会しなかった。)。正男は、立花測量士や助手西園を先導して本件従前地付近を案内して回った。歩いたコースは、別紙(3)図面の<イ>から出発して本件小水路沿いに<ロ>―<ハ>―<ニ>の順に東上し、<ニ>(コンクリート製の境界柱が存した。)から<ホ>にかけての付近より先は足を踏み入れるのが困難な状況にあった(ナエダケ等の雑木林で、足を踏み入れるにはナタで払っていかないと進めない状態であった。)が、<ホ>―<ヘ>―<ト>―<チ>―<ヌ>と見て回り、<ヌ>から里道に沿って東上した。この間、立花測量士は、助手の西園をして、正男から指示を受けた各境界点に赤い布の目印を付けて回った。正男は、立花測量士に対して、<ホ>―<ヘ>間の段差の南側(山側)が清高所有の山であること、<ヘ>―<ト>間の段差の上側(東側)は源蔵の土地であり、下側(西側)は清高の土地であること、<チ>―<ヌ>間の段差の上側(東側)は自己の所有地であり、下側(西側)は清高の土地であること<2>の土地は源蔵名義になっているが実質上は自分の土地であること、里道の北側に存する寺村所有の<15>の土地中に自分の土地が少しあるが、わずかだから要らないこと等を説明した。なお、正男が指示した前記清高所有の山はマテの生える雑木山であり、<1>の部分もマテが生え、地形も右マテ山から続く山の麓と見える形状をしていた。

立花測量士は、右境界確認の際、公簿面積、地目、所有者名等を記入した公図等を持参していた。

5  立花測量士は、昭和61年2月下旬ころ測量器具を携えて改めて本件地区(松ケ迫)を訪れ、前記赤い布きれの基準点を基にして現地測量を実施した(事業費の高騰を考慮して、公共測量による基準点を使用せず、任意の点からの光波測量を実施した。)うえ、同年3月ころ、同地区の実測図(〔証拠略〕)を完成させ、県土改連鹿屋支部に提出した。その際、立花測量士は、本件従前地(4580番4ないし6)間の境界線は正男の説明によっても必ずしも明確とならなかったが、いずれも実質上正男の所有地であるため、清高所有地との筆境いに間違いがなければ1筆調査の委託の趣旨(本来、各筆毎の地積調査を行うが、実質的に各地権者毎の地積が明確になればよい。)に反しないと考え、字図や段差等にも照らし合わせたうえ、各筆毎の境界線を書き入れた(里道の北側に存する源蔵名義の4569番3は、別紙(3)図面の<2>部分に取り込まれていると判断した。)。

県土改連鹿屋支部の牧迫は、右実測図を基に換地設計図(〔証拠略〕)を作成し、花岡土地改良区(鹿屋市土地改良区連合会)は、同年8月6日、本件地区(松ケ迫)の各地権者らを古江上公民館に呼び出した(〔証拠略〕)うえ、立花測量士や牧迫らの作成した右各図面に従前地の地権者名、地番、公簿面積及び実測面積等を書き入れた図面(〔証拠略〕)を関係地権者に示して閲覧(いわゆる地積閲覧)に供し、従前地の地積の測量結果について意見を求めた。同地区の地権者として寺村幸男、折田清則及び正男の3名が出席したが、正男を除く他の地権者は異議を述べなかった。これに対して、正男は、席上、4580番6(別紙(3)図面の<4>部分)の実測面積(957m2)が公簿面積(2171m2)に比較して少なすぎると異議を述べ、押印を拒否した。鹿屋市土地改良区連合会担当者の小牧ふみ子は、「面積に納得できない人は再調査するので早急に申し出るように」と説明したが、正男はその場で再調査の申出をしなかった(なお、同女は、正男に対し、右図面上出てこない4569番3(公簿面積1312m2)が何処に存在するのか、仮に同番2(別紙(3))図面の<8>部分。公簿面積892m2)に含まれるとすれば実測面積(347m2)からして少なすぎないか等と尋ねたところ、正男は、里道は昔もっと南側に存在し、右図面上の<2>から<8>の部分にかけて右2筆が存在する、源蔵名義の4569番3は事実上自分の土地だからこのままでよい等と返答していた。)。

6  本件地区(松ケ迫)の工事は、昭和61年9月ころ着工し、昭和62年3月ころ竣工した。換地委員会(本件地区の地権者から選ばれた換地委員で構成される。(〔証拠略〕)は、立花測量士の作成した前記測量図を基に換地原案を作成し、昭和62年4月6日、正男を含む同地区の各地権者に対して一時利用地の指定(〔証拠略〕)を行った。正男は、これについても、「4580番6は従前2171m2だが一時利用地は388m2、同番8は従前2211m2だが一時利用地は1179m2にすぎない。」として不服を述べ、同改良区の理事長宛に異議申立書(〔証拠略〕)を提出したが、自己所有地の境界線を具体的に指摘して主張することはなかった。

正男の右異議を検討するため、昭和63年1月13日、花岡公民館で換地委員会が開催された。しかし、正男が欠席したため、換地委員会は、前記の一時利用地指定に関して同人の承諾があったものとして(〔証拠略〕)、本件事業の継続を決めた。当時、花岡土地改良区には清高からも「従前地の測量の際正男のみ立会い、同人の言い分だけ聞いて工事を行っている。自分の貰い分が少ないのではないか。」等との苦情が寄せられており、同改良区の児島理事長は、正男と清高間で話し合いが付かない限り、一時利用地の配分を見直すことはできないとの態度を示した。

7  本件地区(松ケ迫)は、平成2年末ころ、本件事業上、計画変更により、正式に独立した単独換地区(5工区)とされた。5工区の換地会議(法89条の2第2項の準用する法52条5項。〔証拠略〕)は、平成2年12月6日開催され、正男(代理人次男)が反対したのみで他の地権者らは全員換地計画決定に賛成した(議長を除く。)。正男は、その直後ころから「4581番は地区外である」との苦情を述べ始めた。被告は、平成3年1月28日付けで、本件事業の換地計画(本件換地計画)を定めた旨公告し、同月29日から同年2月18日までの期間を定めて同計画書の写し(〔証拠略〕)を縦覧に供し(法89条の2第4項、87条5項)、同年3月ころ、正男に対して5工区の換地処分通知書(〔証拠略〕)を送付したが、正男はこれに対して異議の申立てをした。

8  なお、正男は、平成元年ころ、清高から別紙(3)図面の<3>の土地(4580番7)を、また源蔵(昭和63年死亡。相続人チヅ子)から4569番3、4580番4・5の土地をそれぞれ買い受けている。

三  手続違背の有無

1  法87条の3違反の有無

(1) 原告は、「本件工区(松ケ迫)は、従前、本件事業の対象区(3工区)として取り扱われていたが、後日、被告によって3工区から分離、独立され、5工区として新たに設置されたものであり(本件分離・設置)、仮に5工区が当初から単独換地区として設置されたとしても、右設置は本件事業の『重要な部分』(法87条の3第1項)の変更に当たり、本件事業には手続上の瑕疵(工事着手前に公告及び法定の同意を欠くのみならず、右設置の手続が工事終了前になされていない瑕疵)が存する。」と主張する。

(2) そこで検討するに、前記2認定の事実によると、本件工区(松ケ迫)は、当初、本件事業(1工区~4工区)の対象地域外であったが、地元の熱心な要望により、本件事業の対象地域が本件工区にまで拡大され、後日、正式に単独換地区の5工区とされたことが認められるところ、5工区の対象地域が当初から3工区の対象区域に含まれていたとか、いったん3工区に編入された後同区から分離独立されたとかいった事実をうかがわせるに足りる証拠はない。

したがって、この点に関する原告の主張(本件分離・独立)は採用できない。

(3) ところで、5工区は、右にみたとおり、当初から単独換地区として設置されたが、その計画変更手続は工事終了前までになされておらず、この点で手続上の瑕疵を否定できないというべきである。

しかしながら、土地改良区が土地改良事業計画を変更する場合、省令の定めるところにより、総会の議決を経て必要な事項を定め、都道府県知事の認可を受けなければならない(法48条1項)が、右変更のうち、本件の5工区のように、現行地区以外の地域を新たに施行地域とし、現行施行地域を縮小しない場合(法48条3項1号)にあっては、<1>当該変更により増減する地域の面積及びそれに係る事業費がいずれも変更前の地域の面積及びそれに係る事業費の100分の10をこえないときは「軽微な地域の変更」(則38条の6の2)として新規加入する地域の土地に係る事業参加者の3分の2の同意だけでこれを行うことができる(法48条4項)こととされ、さらに、<2>右の「軽微な地域の変更」のうち、変更前の施行地域の組合員が負担する金額を増加させることとならず、かつ、その変更により事業の効率が高められる場合には、「特に軽微な地域の追加」(則38条の6の5)として一層の手続の簡略化が図られている(法48条6項)。

(4) これを本件につきみるに、前記二3に認定したとおり、本件事業の当初の対象地域(1ないし4工区)の面積は213.5ヘクタールであるのに対し、新たに編入された本件工区(松ケ迫)の面積は3.5ヘクタールにすぎず、また、事業費は総額7億2890万4000円のうち本件工区分は5273万4000円にすぎないことが明らかであるから、本件事業において、本件工区(松ケ迫)の編入は右<1>の場合に該当すると認めるのが相当である。

ところで、前記二の3、6、7に認定のとおり、後に5工区とされた本件工区(松ケ迫)の事業開始に当たり、事業参加者全員の同意が得られ、また工事完了後も正男以外の事業参加者は5工区の事業に同意していることが認められるから、5工区に関する本件事業の正式な事業変更手続が仮に5工区の工事完了後になされたとしても、前記<1>に該当する場合の手続簡略化の趣旨(事業参加者の利益保護の観点)からすると、右手続上の瑕疵はすでに治癒されたものと解するのが相当である。

原告は、本件の5工区の編入は「重要な部分の変更」に当たるというが、これを認めるに足りる証拠はない。

よって、原告の主張は採用できない。

2  法114条2項違反の有無

本件地区(松ケ迫)の5工区内に4563番及び4582番1の土地の1部が編入されていること、しかるに法114条2項による分割登記手続は未了のまま本件工事が施行されていることは当事者間に争いがない。

ところで、法114条2項による分割登記手続は、対象地域内に存在しない土地は換地計画の対象とならず、他方、地域内に編入された土地は換地計画の対象とされ、これを従前の土地として換地が指定される(あるいは金銭による清算が行われる)ことから、両者を別個の土地に区別しておく必要があるため、いわば必要的分割として所有者に代わり土地改良事業者に代位登記する義務を課した規定と解される。したがって、右代位登記は工事着工届と同時にされることによって地域内に属する土地を登記簿上明確にする機能を果たすわけであり、これを懈怠した場合には手続上の瑕疵があるといわざるを得ない。

しかしながら、土地改良事業者に代位登記義務を課した趣旨が右にみたとおりであるとすると、仮に土地改良事業者が右登記義務を果たさないまま当該事業を進めたとしても、後日、右分割登記が経由され、これに基づく換地計画書が作成され、所有者にも異議がない場合には、前記手続上の瑕疵は治癒されるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、4563番及び4582番1の土地については、換地計画書の作成前までに分割登記が経由され(〔証拠略〕)、かつ、右両地番の土地の所有者(地権者)は分割登記に何ら異議を述べていないことがうかがえる(証人折田清則、同橋口清高、別紙(2)から、事業者の分割登記懈怠の手続上の瑕疵は治癒されたものと解される。

よって、原告の主張は採用できない。

3  法5条6項違反の有無

原告は、「国有地又は国若しくは地方公共団体が公用若しくは公共の用に供している土地を含めて一定の地域を定めるには、その土地を管理する行政庁又は地方公共団体の承認がなければならず、その場合、当該申請にかかる地域内にある土地の属する市町村の事務所の掲示板に5日間掲示をしなければならないところ、本件事業においてかような措置は採られていない。」旨主張するが、本件事業の対象地域(一定の地域)の指定において、かかる5日間の掲示を必要とする根拠は見当たらず、原告の主張は、前提を欠いて失当というほかない。

4測量法33条1項違反の有無

(一) 原告は、要旨、「本件事業で行われる測量は公共測量でなければならず、境界確認は現地で関係権利者の立会いを得て1筆ごとになされるべきところ、本件ではそれがなされていない。従前地の調査を実測で行う場合、土地家屋調査士による適正な測量が必要である。実測と公簿面積が異なる場合は実測による清算が必要であり、手続的には地権者の立会が必要となる。立会のない場合は手続的に瑕疵がある。公共測量から除かれるのは小道路もしくは建物建設のためなどの局地的測量又は高度の精度を必要としない測量に限られ、本件はこれら除外要件には該当しない。測量法施行令1条4号ニによって公共測量から除外されるのは地形測量、平面測量であり、1筆地測量はこれとは別である。本件測量は、2点以上の3角点などを利用して従前土地の図面と土地改良後の図面とを復元一致させる必要があり、基本測量又は公共測量によって設けられた三角点、図根点、多角点又は水準点を2点以上使用しなければならない測量である。」旨主張する。

(二) 従前地の地積は換地指定の重要な基準となる(法53条1項2号、3号)、が、法は従前地の地積の決定ないし決定の基準について格別の規定をおいていない。このため、従前地の地積の定め方としては実測による場合あるいは公簿面積による場合等が考えられる(土地改良事業における従前地の地積決定が実測地積によることは最も確実な方法といえるが、実測のための境界杭の設置が新たな境界紛争を誘発する虞れがあり、また測量費用が嵩むことを考慮すると、公簿面積によることも不合理とはいえない。)ところ、本件事業では計画の概要(換地設計基準、〔証拠略〕)によると「実測」と定められている。

右実測による場合、1筆地測量の方法(測量作業規定273条)を必要とするか否かが問題となるが、思うに、換地図作成のため行われる確定測量(定められた条件に基づき、工事後の1筆地の境界点の位置を定め、これを現地に標示して1筆地の形状及び地積を確定する作業)では、測量法5条にいう公共測量(すべての測量の基礎となる測量で建設省国土地理院の行う基本測量以外の測量のうち、小道路若しくは建物のため等の局地的測量又は高度の精度を必要としない測量で政令で定めるものを除き、測量に要する費用の全部若しくは一部を国又は公共団体が負担し、若しくは補助して実施するもの)が必要と解せられるから、測量法を遵守すべきことを明らかといえる。これに対して、本件事業における5工区の従前地測量のごときは、あくまで地形測量の一環として1筆ごとの実測を行ったにすぎず(従前地測量では、面積、形状がわかれば充分であって、必ずしも公共測量によって設けられた三角点、図根点等を使用して地球上の位置を特定する必要はないと解する。)、測量作業規定273条にいう1筆地測量とは異なるものと解される。

したがって、本件の従前地測量では、測量法5条(公共測量)の適用はなく、基準点を使用して地球上の位置を特定するまでの必要はないというべく、原告の主張は採用できない。

5  国有財産法31条の3違反の違法

(一) 原告は、「5工区内には国所有の里道が存在するところ、国は隣接地との境界確認に立ち会っていない。右里道は本件事業によって土地改良区に編入され解消されており、国は里道に関する権利を喪失している。」と主張する。

しかしながら、前記二5に認定のとおり、昭和61年8月6日の古江上公民館における地積閲覧の際、正男は、鹿屋市土地改良区連合会担当者小牧ふみ子に対し、別紙(3)図面の道路(里道)は昔もっと南側に存在した旨説明しながら、本件事業の執行中はもちろん、本訴提起に至るまで、この点を問題とする意思を示した節はうかがえず、他の地権者がこの点を問題とした事実も本件証拠上うかがえない。

5工区では、里道との境界について隣接者(地権者)から異議の申立てはなかったと推認され、本件事業に関して同法31条の3にいう「国有財産の境界が明らかでないためその管理に支障がある場合」に当たると認めることはできない。

(二) 仮に、本件事業前に里道の位置が移動しており、民間所有地との境界、あるいは右里道の幅・面積等も不明であったとしても、土地改良事業地域に編入された土地は、法54条の2第6項に基づき道路として国(建設省)に機能交換されるわけであり、国にとって管理上支障を生じることはないと解される。

よって、原告の主張は採用できない。

四  事実誤認の有無

1  4581番の位置

(一) 原告は、4581番の土地は本件事業の対象外であり(本件小水路の南側に存在する。)、事実誤認の瑕疵があると主張するが、以下のとおり、4581番の土地は5工区内に存在すると認められる。

(二) 正男や児玉サミらは、4581番内に里道(セト道)や登り道(甲6点線表示)が存在し、その里道や登り道の北側に続く土地は少なくとも4581番に含まれ、同番地の土地は本件小水路まで続いている、4581番4、5の土地は本件小水路より北側に存する、本件小水路より北側には4581番の土地はない旨供述し、次男の供述及び甲6、16もこれに沿うものといえる。

しかしながら、4581番の土地の所在に関する次男の供述部分は正男からの伝聞にすぎず(第13回調書1項以下)、児玉供述は、その内容からすると、同人が源蔵の所有地(4581番1ないし3の土地)を管理していたにすぎず、清高名義の4581番の所在まで正確に認識していた事実まではうかがえない。また、正男の供述のうち、昭和61年2月25日筆界確認に関する部分は、その場に立会した立花敏文、折田清則、牧迫義文及び谷口正廣らの証言内容と対比して、必ずしも十分には信用しがたい。むしろ、右筆界確認の際に立花測量士が正男から受けた指示説明内容(前記二4参照)からすると、4581番の土地は5工区内に存在すると認定するのが相当である。

立花証言は、右筆界確認に立ち会った折田清則、牧迫義文及び谷日正廣らの証言内容とも概ね一致し、その信憑性は十分肯認することができる(右筆界確認の際目撃した境界柱の数につき、各証人間に必ずしも一致をみないが、<ニ>点に境界柱があったことは各証人の供述が一致しており、右程度の齟齬をもって立花証言の信用性を全面的に覆すことは相当でない。さらに、筆界確認当日、立花測量士の助手西園が正男の指示する境界点に赤い布きれを付けて回ったとする点も右各証人間の供述は一致しており、正男の供述のみこれと異なっている。)。

(三) 以上のほか、正男が4581番の土地を本件事業の対象外と主張し始めたのは、地積閲覧(昭和61年8月)から約4年以上経過した平成2年末ころになってからと認められ(前記二7参照)、同人が当初から右主張をしていたわけではないことがうかがえる。

以上の諸点を考慮すると、4581番は本件小水路の北側に位置し、5工区内に含まれると認めるのが相当であり、本件証拠上、原告の主張は採用できない。

2  4569番3について

原告は、4569番3(本件従前地1)は5工区内にあるのに本件換地計画では工区外とされている旨主張するが、正男の地積閲覧の際の言動(前記二5参照)からすると、同番地の土地は別紙(3)図面上の<2>から<8>の部分にかけて存在すると認めるのが相当であるから、右事実誤認の主張は採用できない(原告は、5工区内外の4582番1の土地が一部本件事業の対象とされているとも主張するが、この点に関する正男の供述は清高の供述と対此すると、直ちに右主張に沿うとはいえず、他に右主張に沿う証拠は見当たらない。)。

五  照応の原則違反の有無

原告は、「本件換地計画及び本件換地処分は、4580番6の南側半分並びに同番2及び同番3の南側部分を正男所有でないと事実誤認した結果、本件従前地に対応する換地の地積が著しく小さく、本件従前地に照応していない違法がある。」旨主張するが、既に検討したとおり、本件事業において右事実誤認の瑕疵は認めることができない。

よって、原告の主張は前提を欠いて失当である。

六  結論

以上の次第であり、本件事業(本件換地計画、本件換地処分)に原告主張の手続違背、事実誤認及び照応の原則違反の瑕疵は認められないから、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 榎下義康 裁判官 牧真千子 冨田敦史)

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